薄片中の放散虫化石

岩石をルーペで見てみると放散虫化石と推測されるものがしばしば見つかる.
埼玉県寄居町の跡倉ナップに関しても,いろいろの岩石に見出されている.
最近,それらの岩石の薄片について,放散虫化石を撮影してみた.
今回報告する岩石は,次の寄居-小川地域の地質図の×印の位置で採集したものである.

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○ 赤の×印地点では,珪質泥岩とチャートの互層が跡倉層と寄居層の間に挟まっている.
この岩体の大きさは約75m x 36mであったが,現在そこは寄居ホンダ工場の一部になっている.
珪質泥岩をルーペで見てみると,
大きさ100µm前後の断面がリング状を呈する組織(放散虫化石)が多数認められる.
この岩石の薄片を光学顕微鏡で見てみると,明瞭なリング状組織やかなりあいまいなリング状組織および
小さなリング状組織などいろいろのリング状組織が観察される.
次の画像はオープンニコルで撮影したもの.

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次の2つ画像は,薄片の別の部分をオープンニコルとクロスニコルで撮影したもの.

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次の画像は,倍率が低い対物レンズを使ってオープンニコルで撮影したもの.スケールは100µm.
少し遠方で斜め横から見ると,リング状物体を確認しやすくなる.

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オープンニコルで撮影した画像を見ると,かなり大きい白いリングとその内部の泥質物質が目に付く.
白い石英リングは,リング内部の泥質物質が濃い方がより明瞭にみえる.
白色のリングは放散虫化石の外殻を反映したものであると推定される.
大きい石英リングの周辺には,小さいリング状物体が多数みられる.放散虫化石の破片と推測される.
(放散虫の外殻には多数の空孔が存在する.)
放散虫化石と直ぐに分かるかなり大きいリング状物体は必ずしも多くないが,
画像を少し遠方から眺めてみると
楕円形やリング状の泥質の物体が多数存在していることを認識できる.
この岩石組織は,放散虫化石の輪郭を反映したものと考えられる.

クロスニコルで撮影した画像を見てみると,非常に微細な鉱物が多数認められる.
特に,白色リングを構成している微小の石英や繊維状のセリサイトが注目される.
画像の暗色部分については,リング状や楕円形を呈しているところが少なくない. 
暗色部分には緑泥石などの粘土鉱物が多いようで,ステージを回転しても消光がはっきりしない.
消光が不明瞭であるので,暗色リングを形づくるのである.

放散虫の外殻は含水非晶質シリカで形成されているが,この珪質泥岩では石英に変化している.
セリサイトの定向配列も認められ,この堆積岩はある程度の再結晶作用を受けている.
放散虫化石の多くは,
再結晶作用は弱いのに,輪郭などがそれほど明瞭に保存されているわけではない.

次に,この岩石がかなり高温の変成作用を受けた場合を推測してみる.
高温下では,石英粒子は10µm前後の大きさに成長するであろう.
放散虫化石の薄い外殻は消滅してしまうはずである.
しかしながら,かなり高温の変成岩であっても,
(1)放散虫化石の輪郭は,リング状の石英の配列として部分的に残存する.
(2)放散虫化石の内部にある有色鉱物の濃集部分について,その楕円形の形状はある程度保存される.
したがって,かなり高温の変成岩であっても,放散虫化石の輪郭を反映する組織は残存可能である.

○ 地質図の黒のX印地点では,砂質変成岩が露出している.ただし,石英岩的なものが多い.
調べた岩石はうす茶色の塊状の岩石で,切断面をルーペで見ると,リング状の小物体が多数認められる.
次の画像はUSBマイクロスコープの画像で,
中央部に多数のリング状小物体がみえる.大きさが100µm前後のものが多い.

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この岩石の薄片を光学顕微鏡(クロスニコル)で見てみると,岩石はほとんど石英からできており,
その他に,無数の微細な鉱物が不規則に分散している.
微細な鉱物は炭質物やスフェンなどと推測されるが,詳細は不明である.
石英はかなり大きく,100µm以上のものが普通に認められる.
ルーペで認められた「リング状の小物体」は,容易には確認できない.

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薄片をオープンニコルで見てみると(次の画像),
無数の微小鉱物の分布が全く不規則なわけではないことが見て取れる.
微細な鉱物が多い領域が,楕円形や厚いリング状に多数分布していることが,かすかに認められる.
拡大した画像を遠方や斜め横から眺めてみると,楕円形組織やリング状組織がぼんやりと見えてくる.
これは放散虫化石の輪郭を反映した組織であると推定される.

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なお,リング状組織の認識は,画像よりも光学顕微鏡下での方がずっと容易である.

問題の岩石では,変成作用で石英は大きく結晶成長したが,
炭質物やスフェンはほとんど粗粒化せず,石英の内部に包有物として取り込まれた.
包有物となった微小鉱物の分布状況は,変成作用以前の岩石組織を反映しており,
ルーペでみると多数のリング状小物体(化石)に見えるのである.
ルーペで見えるリング状組織が変成組織ではないことが重要である.

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